「天は赤い河のほとり」パロディ小説(20)
ウーレ姫物語
~シュンシューン側近の手記より
驚愕の執務室
イントロダクション
私はヒッタイト軍輜重隊、中隊長ジュセル。えっ、私のことを知らないって?
まあ、原作に出てこないキャラクターだからね。
移民の文官、シュンシューンさまが輜重隊付きの文官に就かれたのは2年程前。
ヒッタイト軍では、元老院とのコミュニケーションを図るため、各部隊にそれぞれ部隊付きの文官が配属される。今まで、私が中隊長を勤める輜重隊付きの文官は位の低い方しか就かれていなかった。実戦部隊ではないという理由で。
しかし、当時の近衛長官、ムルシリ二世殿下(当時)が、補給の重要性を認識され、移民ではあるが、割と高位のシュンシューンさまをお付け下さった。
(輜重隊=しちょうたい:物資や兵器などを運んだり管理する部隊)
シュンシューンさまは、イシュタルさまと何か特殊なつながり(※同じ国出身です・・) があるようで、今まで軍の中で低く見られていた輜重隊にも王宮関係者や民衆の目が向けられるようになった。
おかげで、希望者も殺到し、良い人材に恵まれている。
今までの輜重隊付きの文官は、ここを出世への足場としか見ていなかったらしく、兵士よりも、とにかく上の方ばかり見ていた。それに比べ、シュンシューンさまは他の部隊へ移る気もなければ出世欲もなく、お住いも小隊長用の小さな家。(何か理由があるらしいが)
さらに特筆すべきは、女性に対しても身持ちが堅いこと。部下の女房に手を出すこともなければ、娼館にも行ったことがないそうだ。
問題は、といえば「兵士の待遇が悪い」「罰が重すぎる」とすぐに私の所にねじ込んでくること。でも、兵士の待遇が良くなることは私にとっても嬉しいことで あり、私はシュンシューンさまがここにいる限りお仕えしようと思っている。シュンシューンさまも私に目をかけてくださり、私の事を「シュンシューンの寵 臣」と噂する者も。それはいいけどね。
ちなみに私 ジュセル は 妻 ジュリア と子ども3人の5人家族。エジプト系の移民で、上級の自由民である。
いつもの一日が始まるはずが・・・
私はいつものようにシュンシューンさまの執務室におじゃました。
時は原作14巻。イシュタルさまがウガリットからお戻りになったところ、ナキアさまのお手配によって後宮に7人のお后候補と100人の側室候補が待っていて、皇帝陛下やイシュタルさまが目を回した日から数日後である。
確かに、王宮内はお后候補の姫君さまのお付きの方と思われる、見慣れぬ者が多い。警備の近衛兵もピリピリしている。
でも、ユーリさまの寵臣イル・バーニさまの寵臣シュンシューンさまの寵臣である私は顔なじみの近衛兵に声を掛けながら王宮内をずかずかと進み、シュンシューンさまの執務室へ。
いつもだと、私が扉を開けると「おお、ジュセルか」と、とびきりのにこにこ顔で迎えてくれるのだが・・・・
近衛兵に会釈をして、シュンシューンさまの執務室を開けた私は信じられないものを目にした。
シュンシューンさまの膝の上に女性が座り、その女性と抱き合っているではないか。
「シュンシューン、人が入ってきました」と女性の声。明らかに奥さんのアリエルさまの声ではない。一体誰?
「ああ、この者なら大丈夫です。私の最も信頼できる部下ですから。ジュセル、良いところに来た。扉の内側で控えていてくれ」
「は、はい」
この女性は一体誰?。女性には身持ちが堅く、色気たっぷりの私の妻にも 色目を使わないほどのお方が 抱き合っている相手とは・・・
シュンシューンさまの躯に巻き付いている細い腕は、アリエルさまのような象牙色ではない。でも、美しい栗色の髪に豪華な服、沢山の宝飾物、香しい香り。
少しして、相手の女性がこちらを見、私はぶっ倒れそうになった。
ウ、ウーレ姫・・・。
確か、7人のお后候補の一人で、先々帝の姪子さまでいらっしゃる・・・
ウーレ姫が去った後の執務室で私は思わず尋ねてしまった。
「シュンシューンさま。確かにこの国では一夫多妻や側室が認められてはいますが、お相手が悪すぎますよ。貴族が皇族を第二正妃や側室にすることはさすがに 認められていないのでは。(まさか、アリエルさまを差し置いて正妃にすることは絶対にありえないだろうな…) それに、今まで、身持ちを固くしていらっ しゃったのに・・」
7人の姫君の中では、一番お顔がふっくらしていて、確かにシュンシューンさま好みの姫君である。でもでも。
(内、アレキサンドラ姫はまだお若くて、シュンシューンさまのお嬢様、ミニイさまの遊び相手にふさわしかったりして。)
「実は・・・」シュンシューンさまは語りはじめた。
シュンシューンさまのお話
ウーレ姫が私の所に出入りするようになったのは、ヒッタイトにお越しになって間もない頃。「ヒッタイトの法律について学びたい」と私の所にお見えになったので、説明をはじめたのだが、どうも、身が入っていらっしゃらないご様子。
思い切って「ウーレ姫、何かお悩みでもあるのではないですか。私は太陽の昇る国からの移民で、しがらみもないし、口も堅い。思い切って・・」と尋ねたところ、いきなり「がば」と抱きついてきた。
「シュンシューン、わたしは知っているのです」ウーレ姫は私の胸に顔を埋めながら語りはじめた。
「何をでしょうか」
「ムルシリ二世陛下が、イシュタル殿しか愛していなくて、わたしはナキアさまの陰謀のために連れてこられたことを」
そこまで気が付くとは、なかなか聡明な方だ、と思った
「これで、正式に陛下が御正妃をイシュタル殿にお決めになると、わたしはお払い箱。実家に返されるのです」
「ふむふむ」
「すると、わたしは『出戻り姫』と言われ、皇族や貴族には嫁げず、一生、実家の宮で独身で過ごさなくてはなりません」
「・・・・」
「わたしは生まれてから『どこかの皇族か貴族の所に嫁ぐものだ』と教育を受けてまいりました。もちろん、皇帝とまではいかなくても、どこかの貴族の妻になり、自分の子供も側室の子供も分け隔てなく育て、その家を盛り立てていく。それを楽しみにしていたのに」
「ほう。」
「わたし、まだ男の人と付き合ったことがないのです。」
確かに、抱きついているウーレ姫は震えていた。
「わたし、男の人のぬくもりを知らないのです。シュンシューン、わたしの彼氏になってください。どうせ、陛下には触れていただくことは絶対にないのですから、陛下を裏切ることにはなりません。」
(確かに、皇帝陛下がウーレ姫に心移りすることはあり得んだろうな。絶対に。でも・・・)
「ウーレ姫。申し訳ないが、私には『太陽の昇る国』から付いてきた妻がいます」
「この国では妾を持つことや、一夫多妻は当たり前のことですので、気にしていません。わたし、このままだと男の人のぬくもりを知らないまま実家で一生過ごし、老いていくことに・・・わーん」
アリエル、すまない・・・シュンシューンは、ウーレ姫のふっくらした頬を右手で、後頭部を左手で包み込むと、固く閉じられた瞼の下にある、ゼリービーンズのようにぷるぷると震える唇に・・・・・
ウーレ姫のこと
と、そこに私(ジュセル)が入ってきたというわけだ。
「ウーレ姫って、皇太后派なのにもかかわらず、イシュタルさまに嫌がらせをなさりませんよね。いい姫君ですね。で、姫もいい人に目を付けましたね」と私
「どうして?」
「シュンシューンさまより身分の低い者ですと、姫が直接会うと身分不相応で目立つし、高い身分の方は皇帝派か皇太后派のどちらかに付いているかが明らかなので、結局会うと目立ってしまう。それに・・・」
「それに?」
「シュンシューンさまは、とても姫と密通するように見えませんから」
「こら。ばかもん」
シュンシューンさまの依頼
数日後、私はシュンシューンさまから呼び出された。
「おう、ジュセル。すまないな」
「いえいえ。シュンシューンさまもお疲れの御様子。あの後、姫とはどうなりましたか?」
シュンシューンさまも大変だろう。高貴な姫と付き合うハメになり、一歩間違って姫のご機嫌を損ねれば、たちまちその行いを元老院に通報される。(いくら泡沫候補とはいえ) 皇帝のお妃候補と通じたとなれば、シュンシューンさまは裁判無しで即刻死罪・・・・
しかも、奥様のアリエルさまには内緒にしているという。私だったら妻に話してしまうところだが、何かご事情でもあるのだろうか。これでは、家にお帰りになっても、おくつろぎになれないだろう。お気の毒・・
代われるものなら私が代わりたいものだ。妻を妾にして、姫を嫁に迎えるのに・・おいおい
「あれから・・・・」シュンシューンさまは語りはじめた。
ヒッタイト法典の勉強と称して、ウーレ姫は毎日執務室にやってきては、「中学生程度」の交際をして帰っていく。
そこまでは良かったのだが、昨日、姫からこう所望された
「皇帝陛下とイシュタル殿は、毎晩、二人で抱き合って寝ているそうです。好きな男性の腕の中で眠りにつくって、どんな感じなのでしょうか。私も実家に帰される前に、それを味わってみたいのです。物心付いた頃から、わたしは一人の冷たいベッドで寝ているので・・・」
「で、でも・・・・」
「シュンシューンがアリエル殿を大切にしているお気持ちは存じています。最後の一線を越えるかどうかはシュンシューンにおまかせします。ただ、実家に帰るまでに、一回はあなたの腕枕で・・・」
なんという不憫で聡明な姫なのだろう。ということでシュンシューンさまも折れてしまったとのこと。
「不憫な姫のことを思うと、よくぞご決断いただきました。姫も喜びましょう。」
「ああ。ただ、問題があって」
「何でしょうか」
「私が姫と付き合っていることは、そなた以外、誰も知らない。皇帝陛下やユーリさまを始め、イル・バーニさま、三隊長さまも」
「ええ、私をご信頼頂き、ありがとうございます。」
「どうやって、姫と一晩過ごす場所を確保しようか悩んでいるのだ。王宮内にイル・バーニさまたちから目の届かない部屋はないし、姫を外に連れ出すわけにも行かない。今回だけはイル・バーニさまの私兵の手も借りられないしなぁ」
「それなら、お任せ下さい」
輜重隊集合!!
私は、輜重中隊に帰ると、兵士を集め、暗号名「輜重隊ミニ訓練」と称する 今回の作戦と任務を伝えた。
第一小隊: 王宮内にある輜重隊倉庫の一部を片付け、清掃し、天蓋付きのベッドを設置する。回りを幕で覆い、香も焚くこと。
第二小隊: 輜重隊倉庫の中に仮設の風呂と炊事場を設ける。
第三小隊: ウーレ姫の居住区のロウソクを、特別製のものに交換すること。ロウソクには睡眠薬が仕掛けてあり、時間が来ると女官や兵士が眠りこけるというわけ。もちろん、ウーレ姫と、姫を迎えに行くジュリアには先に解毒薬を飲んでおいてもらう。
そして、特別小隊こと私:戦車で王宮を出て、アリエルさまの所に向かい「姫君さまの接待のため、シュンシューンさまは今夜は帰れない」と伝えた。もちろん、接待の内容は伝えられるわけがないけど。
次いで、自宅に回り、愛妻ジュリアを女官の制服に着替えさせ、王宮の輜重隊倉庫に連れてきた。
輜重隊は物資を管理する所。天蓋つきのベッドから女官の制服、睡眠薬まで何でも揃うのである。さすがにピンク色の水までは揃わなかったが。
関係する兵士には堅く口止めしたが、それは釈迦に説法というもの。だいいち、シュンシューンさまが死罪になったり失脚したら、他の文官がやってきて、兵士達の待遇が悪くなるではないか。
兵士達もこういうことは興味津々で、おもしろがって準備に汗を流してくれている・・・。
こうして、準備はすっかり整った。
初夜??
夜9時。輜重隊兵士が倉庫を警備する中、女官姿のジュリアに連れられたウーレ姫がやってきた。
私は、隊長の特権とばかりに、倉庫から兵士達を追い出した。倉庫の中に張られた幕の外でシュンシューンさまと姫をお守りすると称して、槍を手にして、傍らの木箱に腰掛けた。
ジュリアはウーレ姫を伴い、天幕の中の仮設風呂へ。ウーレ姫は幼い頃から召使いと暮らしているので、一人でお風呂に入れないのだ。私は覗きたかったが、妻にばれると大変なことになるので、ぐっとこらえた。
風呂から出てきたウーレ姫は、香油を塗ってもらい、ガウンを羽織ると、(先に入浴を済ませていた)シュンシューンさまの待つ幕の中へ。そこには、サイドテーブルの他は、天蓋付きのベッドがひとつ。
幕の中からはウーレ姫のすすり泣きと、シュンシューンさまが何か語りかけている声、そして、二人分の衣擦れの音がしたかと思うと、ウーレ姫のため息が。私 の胸は高鳴り、爆発寸前。さあ、いよいよ・・・・「太陽が昇る国の四十八種の魔法」が炸裂するか!!。
すると、突然耳が引っ張られた。傍らで姫の着替えを整えていた、妻のジュリアの仕業である。
「いててて、何するんだ」と眼で訴えると、「二人きりにしてあげようよ」と眼で返された。私とジュリアは倉庫を出ると、兵士たちが野営している天幕へ向かった。
ウーレ姫の悩みと王宮内のこと
その後も、ウーレ姫は昼間の執務室に足しげく通っていた。
「昼間、ここに居て大丈夫なの?」とシュンシューンさま。
「ええ、この国では学問が推奨されているので、文官の所に勉強に行くのは自然な事です。それに、わたしは他の姫君たちと一緒に十把一からげで『お妃候補の姫君さま』と呼ばれていて、抜けてもばれませんよ。どうせ泡沫候補だし・・・・」がばっ。
また、姫君たちの間では、最近、アクシャム姫が色々仕切るようになって、困っているという話などをしているそうだ。
アレキサンドラ姫は明らかにイシュタル派だし、アッダ・シャルラト姫はどちらにも与していない御様子だが、残りの姫たちをアクシャム姫は掌握しつつあるというのだ。
あのイシュタルさまの寝室にサソリが仕掛けられた事件も、ウーレ姫は全く関与していないのに、イシュタルさまの女官たち(例の三姉妹かな?)から犯人扱いされて悔しい、と愚痴をこぼしているとか。
シュンシューンさまは、膝に乗らせたり、愚痴らせるだけでは姫が可哀想だと、ゲームを持ち込むようになった。
太陽が昇る国のカードゲームで、カードには猪や蝶、鹿や月の絵が美しく描かれている。たしか、「フラワーカード」と言ったっけ。これで、ますます姫の入り浸る時間が長くなった。
もっとも、今、王宮内は権力争いでがたがたしている。皆、最低限の政務をしている他は、あちこち出かけて、仲間と会ったり敵の人間を陥れたり。執務の合間に若い姫と遊んでいるシュンシューンさまなんて、それに比べればかわいい方である。
それにしても、あの夜、二人はどこまでいったのだろう。シュンシューンさまは絶対に話してくれないし、翌朝、姫の着替えを手伝ったジュリアに尋ねてもにこにこ笑っているだけである。
あの夜、兵士たちの配慮で、私とジュリアは二人だけで小型の天幕に入ることになり、つい致してしまったのだが。
シュンシューンさまの依頼 その2
そんなある日、何か決意した表情のシュンシューンさまから 又 私は呼び出された。
「最近、ウーレ姫が沈み込んでいるご様子。手間をかけてすまないが、アレをセットしてくれないか」と。
ところが、明後日に第二戦車隊が遠征訓練に出発する関係で、今、輜重隊倉庫には昼夜を問わず大勢の兵士が出入りしている。いくら広い王宮でも、倉庫以外にふたりが一夜を過ごせる場所は思い付かない。
そこで、「第二戦車隊が出発してしまえば、倉庫が落ち着きますので、明後日の夜でよろしいでしょうか」と答えた。
それにしても、ここのところ数日、何かを決意されたシュンシューンさまの様子がおかしい。輜重隊の控室にやってきて、休憩コーナーのベッドに倒れ込んで仮眠したかと思うと「アリエル、すまない」「こうしないとこの世界で生き延びられないのだ」とうわごとを言っている。
ああ、シュンシューンさま。おいたわしい。代われるものなら私が代わって差し上げたい。妻を第二夫人にして、姫を嫁に迎えるのに・・おいおい
事件発生
翌日。大変なことが起こった。事もあろうに、アクシャム姫が何者かに殺害されてしまったのだ。
まあ、輜重隊は後宮のことは関係なく仕事をしなければならない。シュンシューンさまからも「ウーレ姫はショックで食事もとれていないようだ。使うかどうかはわからないが、とりあえず、第二戦車隊が出発したら準備にかかってくれ」と言われている。確かに、ここのところ、ウーレ姫はシュンシューンさまの執務中、執務室に入り浸りだったのである。
ウーレ姫さまもシュンシューンさまだけしか、心の支えになる人がいないのだろう。
さらにその翌日。アクシャム姫の御遺体のお迎えにトゥダリア殿下もお見えになって、王宮内が騒然としているころ・・・・・・・
ウーレ姫が御遺体となって中庭の池で発見されたとの報が、王宮中を駆けめぐった・・・・・・・・
姫君が二人も殺害されたというので、王宮内は大パニック。テロの可能性があるので、出発したばかりの第二戦車隊の遠征訓練も中止と決まり、間もなく全車両が引き返してくる。私も馬や戦車などの受け入れで忙しくなる。
あれ、ところで、シュンシューンさまは??
輜重隊の倉庫で
シュンシューンさまは、輜重隊の倉庫の隅でうずくまってすすり上げていた。
腕にはウーレ姫が忘れていったガウンを抱えている。私は声をかけることもできずに、その様子を見つめていた。
私は、執務室でのお二人の御様子を思い出した。ウーレ姫は、シュンシューンさまの膝に乗ったり「フラワーカード」をして戯れているだけだったけど、とてもイキイキと輝いていた。執務室の中だけで・・・・
上手く言えないが、何か、ひさしぶりに再開した兄妹がじゃれあっているような、健康的な仲睦じさだったっけ・・・。
輜重隊の倉庫に、女官に化けた私の愛妻ジュリアも入ってきた。「あなた、お仕事が忙しくなるんでしょ、着替えとお弁当持ってきた………………あら、シュンシューンさま、涙でお顔がくしゃくしゃですよ。どうしたのですか」
「ジュリア殿、こんな顔してすまない。あの夜、私はウーレ姫と一線を……なかった…………でも、こんなことになるんだったら、先延ばしなんかしないで、私がきちんと………してあげていれば…………」
「シュンシューンさま」ジュリアは微笑みながら返事を返した。「ええ。朝のお着替えの時、ウーレさまから聞いていましたよ。アレがなかったのは残念がっていましたけど、ウーレさまはとても喜んでいました。『男の人のぬくもりや腕枕ってこんなに気持ちよく寝られるんだ』と。」
「さらに、こんな事も言っていました。『二人で迎える朝がこんなに素敵なのだったら、わたし、身分を捨ててもいい。出戻り娘は皇族や貴族の嫁にはなれないけど、庶民だったらわたしのこと、もらってくれる人がいるかもしれない。皇帝陛下とイシュタルさまが世の中を治めるようになれば、治世は良くなるはずなので、庶民の嫁でもやっていけるよね。』と。」ジュリアは何か思い出したように話を続けた。
「わたしは『もっちろん!!!。もし飼い殺しにされたら、宮なんて飛び出して、私たちの所においでよ。料理の作り方も教えてあげるし、いい人も見つけてあげるから。ね。』と返しました。それなのに・・首を絞められて池に放り込まれて。さぞかし苦しかったよね。悔しかったよね」
いきなり、ジュリアも泣き出してしまった。そこに、戦車隊の轍(わだち)の音が。
私は、シュンシューンとジュリアをウーレ姫のガウンと一緒に、傍らの小部屋に押し込んだ。兵士たちが帰ってくるのに、私の妻と責任者の文官が抱き合って泣いていたのでは話にならない。でも、シュンシューンさま、ジュリア。小部屋で間違いを起こすなよ…………。
執務室について
28巻ベースのパロ8話、9話では、シュンシューンが執務室から部下の文官を追い出す描写があります。
一方、本話では、姫が執務室に入り浸っている。どういうことかって??
パロ8話、9話の28巻の時代は、ナキアさまも失脚し、タワナアンナ、ユーリさまは思い通りの治世をしています。その中で、シュンシューンに専属の部下を付けて、色々な仕事を任せていたのです。
一方、本話では、執務室はもらっていたが、専属の部下はいなかった。だから、普段は部屋でひとりで仕事をしていた。そういう設定です。
ジュセルの名前の由来
エジプト第三王朝のファラオ、ジェセル王の名前をちょっと変えただけです。
彼も移民にした方が、移民どうし、通じ合うものがあると思ったから。
(C) 2005-2018 SHUN-SHUUN INARI