「天は赤い河のほとり」パロディ小説(9)「ユーリの未来旅行」
この話はパロディ8話「皇帝陛下の憂鬱」と内容がリンクしています。
シュンシューンの執務室で
元老院文官、シュンシューン・イナリが執務室で政務をこなしていると、黒い髪を振り乱して一人の女性が飛び込んできた。
ノック無しで飛び込んでこれる女性は限られている。
「ユーリさま、お待ち下さい」黒髪の女性を追いかけるように、女官のハディとアダも飛び込んできた。
「ハディさま、執務中ですよ。どうなさったのですか」シュンシューンは軽くたしなめた。
ユーリは、腰に付けた剣に手をあてて、こちらを見ている
(アダ=25巻で登場した女官。リュイとシャラがそれぞれ育児に入った時期なので、双子の代わりにここで仕事をしている)
ユーリさま、爆発
「もーいやっ。タワナアンナがこんな退屈だったとは思わなかったわ」
「ユーリさま、お気持ちはわかりますが、お立場を思い出されて・・」と、ハディ。
「ユーリさま、此処にいる者は口の堅い私の部下だけですが、民衆の前でこのようなことをおっしゃると…」と、シュンシューン
「でも、王宮から一歩も出てはいけないなんて、つまんない。シュンシューン!!」
どういうことかというと
皇帝・ムルシリ二世はユーリ立皇後、平和な治世を布いていたが、カルケミシュで、ナキア前皇太后の元私兵とカルケミシュ軍が小競り合いをはじめた。
カルケミシュ知事、ジュダ皇弟殿下率いる大半の軍が、遠征訓練に出かけた隙を突かれたのだった。
本来は部隊長クラスの軍で収められる小競り合いだったが、皇帝の威光を見せつけるのと、若い兵士に実戦を体験させるため、ムルシリ二世は若い兵中心の部隊とともに、カルケミシュに親征してしまった。このような場合、27巻より前のコミックのパターンだと、ユーリも出陣するのであるが、現在、ユーリは帝国ナンバー2のタワナアンナ。皇帝不在の時は皇帝に代わって政務をしなければならず、危機管理の考え方から、王宮から出られなくなってしまったのだ。
ところで、今回の遠征では帯同文官として、いつものシュンシューンではなく、他の者が指名された。
タワナアンナからの指示との噂もあり、おかしいと思いつつ政務に励んでいたのだが・・・・
シュンシューンが残された理由
「シュンシューンさま。もともとアウトドア派のユーリさまは外出できないために、ストレスが貯まって、私たち女官に当たるようになっています」
「確かに、育児と政務の毎日ではご心労が貯まるのも無理ありませんが、イル・バーニさまの命令でユーリさまを王宮の外に連れ出すことができなくて・・・」
「ひとつ、アレを・・・・」
そうか、今回の遠征でシュンシューンが居残りさせられたわけが分かった。
タイムマシンで、ユーリさまを気晴らしに連れていくのに・・・・・
確かに、タイムマシンで未来旅行するのなら、王宮を出たことにならないものね
未来旅行へ
すべてを察したシュンシューンは、政務を中断すると、タイムマシンの支度をはじめた。
今日の政務打ち切りを告げられた部下の文官たちはいそいそと帰り支度をはじめた。
「ねえ、シュンシューン」ユーリさまの声がすっかり明るくなっている。「この、ゴキブリの形は何とかならないの」
「申し訳ありません。形を変えようとしたのですが、どうも、性能に影響してしまうので。25世紀人は一体何を考えているのやら」
「なお、今回の改良点として、外部の品物を中に取り込める、プチ瞬間物質移動装置を作りましたので、21世紀の品物を手にすることはできると思います。ただし、その逆は出来ませんので、メッセージを残すことはできません。」
タイムマシンには、ユーリさま、ハディ、リュイ、アダ、アリエル(シュンシューンの妻)、シュンシューンが乗り込んだ。
(シャラは双子の子供達と、アリエルの子供達をみることに)
ここで、タイムマシンの性能を確認しておこう。
シュンシューンが25世紀人からもらったタイムマシン、厳密には「タイムマシンの救命ボート」なので、・昆虫(ゴキブリ)の形と大きさをしており、縮小光線を当てて乗り込むという制約がある。
・10人程度乗車可能。(救命ボートなので)
・出発した時代と25世紀以外には行くことはできても、下りることができない
・内部と外部では物の受け渡しが出来ない。内部の声は外部に聞こえない
(今回の改良点で、外部の品物を中に取り込めるプチ瞬間物質移動装置がついたので、外部の品物を手にすることはできるようになった)
出発
「ユーリさま、どこへ行きますか。まずはご自宅へ??」
「自宅を見ると辛くなるので……。そうだ、ディズニーランドの隣に出来たテーマパークを見たいな。」
「今回は(戦場の)イラク経由というのはやめてね。あなた以外、乗員は全員女性なんだから」と、ハディ
21世紀へ
シュンシューンの巧みな操作で、タイムマシンは『東京ディズニーシー』に着いた。
季節は秋である。
カラフルな服を着た人たちが冒険とイマジネーションの海を闊歩している
初めて21世紀の世界を見たアダはもとより、皆、アリエルを質問責めにしている。
「この乗り物はどうやって動くのですが」「あの服はどうやって着るのですか??」
アリエルを連れてきてよかった・・・シュンシューンは密かに思った。
タイムマシンの準備を始めたとき、妻のアリエルを迎えに行くため、シュンシューンは自宅に戦車を迎えにやっていたのだった。 操縦と説明を同時にするのはなかなか難しいのである。
ディズニーリゾートを満喫
ゴキブリ型タイムマシンは、黒い服を着た人の肩や、黒いリュックサックを背負った人に巧みに掴まりながら進み、皆はディズニーシーを満喫した。
ディズニーリゾートの中に、ユーリの知らない施設がたくさん出来ていた。
その中の一つ、とあるホテルにタイムマシンは進んだ。
「未来の宿屋ってどんな感じなのかしら」ハディ、アダ、リュイはわくわくしている。まずは、1階の宴会場フロアに向かったのだが・・・・・
宴会場で
大宴会場「ドリームホール」の入り口の看板には「氷室家・鈴木家御結婚披露宴会場」の文字が。
シュンシューンとアリエルとユーリは顔を見合わせた。「まさか、これって・・・・」
他の3人はきょとんとしている
中にはいるとやっぱり。メインテーブルにはユーリの元彼の氷室聡とユーリの妹、鈴木詠美が座っている。わざわざ自宅を避けたのに、また懐かしいメンバーと顔を合わせるなんて。ユーリもついていない。
披露宴は、丁度来賓挨拶だった。
「で、あるからして、私はお二人の幸せをお祈りすると共に、北方民族に拉致されたと推測される、鈴木夕梨さんの一日も早い帰国を祈ってやみません・・・・・・・」
「北方民族による拉致被害者連絡協議会会長、○○さまの挨拶でした」
「ええっ、私って拉致されたことにされているの??」ユーリは複雑な表情をした。ウエディングケーキ入刀も済み、会場が明るくなって、乾杯。
黒服(ホテルのルームキャップ)の肩に乗っかって慎重に会場内を移動した先は、新婦両親席。
このテーブルには、夕梨の両親と、毬絵、毬絵の夫が着席している。でも、料理が一人分多い。
席札には「鈴木夕梨様」
司会者が、玉を転がすような声で「新婦の両親席には、夕梨がいつでも飛び込んでこられるように、という祈りを込めて、夕梨様のお料理も用意してあります。余っているからと言って、手を付けないように」とまじめくさってアナウンスしていた。
料理の前に置かれた夕梨の写真は15歳のまま。
タイムマシン危機一髪
「あの料理ってユーリさまのための料理でしょ。21世紀の料理って、食べてみたいな」
アダはそういうと、操縦桿をシュンシューンから奪い、料理に向かってタイムマシンを突進させた!!!
「アダ、だめだよ」という間もなく、タイムマシンはテーブルの上へ
「キャー、ゴキブリ」という悲鳴がきこえたかと思うと、はえ叩きやらスリッパがとんでくる。殺虫剤の霧もかかるし、数人の人間がタイムマシンを踏みつぶそうと右往左往している。
シュンシューンはアダから操縦桿をもぎ取ると、どうにかカーテンのひだの隙間に逃げ隠れた。
21世紀の料理
「アダ!!」「シュンシューン、ごめんなさい」アダはシュンシューンの胸で号泣ながら震えている。
踏みつぶされそうだったのがよっぽど怖かったのだろう。ましてや、ユーリさまにもしものことがあったら・・・・
アダはしばらく泣いていたが、アリエルの視線に気が付くと、はっとシュンシューンから離れた。
「そんなに21世紀の料理が食べたかったの??」とアリエル。
「ええ・・・・・・・、ぐすん」
(ヒッタイトに戻ってから私が作って上げたいのは山々だけど、材料がないし・・・)シュンシューンは、天井裏を伝って、ある宴会場に着いた。
そこは、他の組の結婚式が終わった後だというのに、残った料理がそのままになっており、誰もいない。
アリエルは「これって」
「多分、この部屋のスタッフたちは、披露宴が終わると早々に他の部屋の立て替え(どんでん返し)にかり出されて、ここの片づけを後回しにしているんだ」
「シュンシューン、詳しいね」とユーリ
「ヒッタイトに来る前の本業はこれだったので。」
「じゃあ、法律は??」「趣味」
(私は中学生でタイムスリップしたけど、シュンシューンは社会人だったっけ・・・)
立て替え(どんでん返し)= ホテルや結婚式場の隠語で、先に結婚式(宴会)が終わったお部屋を片付け、新しく座席や料理を並べ替えて次の結婚式の準備をすること。忙しい会場だと、立 て替えの時間は30〜60分と極めて短い。先の結婚式のお開きが遅くなると、次の結婚式の開式に間に合わせるため、片付けと準備にあちこちからスタッフが 集められ、まるで戦争のような状態になる。
「しばらく、大丈夫みたいだから、この部屋の料理を食べよう」
「でも、人の食べかけなんてイヤだわ」とアリエル
「大丈夫。絶対に手を付けていない料理があるから・・・・」と向かったのは新婦様お席。確かに、新婦様は料理をたべられないものね。
「なるほどね」アリエルも納得。さあ、何から食べようか。
瞬間物質移動装置は大活躍。ほぼ全ての種類の料理を取り込み、皆で食べた。
「わーっ、甘〜い」「わー、おいしい」「これって、ヒッタイトにあったよね(ビールやワインの事かな)」「何か薬草のような匂いがしない??(化学物質が入っているのをヒッタイトの人たちは見抜いたか??)」
最後に行ったのは・・・
ホテルのご馳走で満腹になった一行は、先ほどの披露宴会場に戻った。
とりあえず、天井近くの非常誘導灯の陰に隠れて見守ることにする。
歌に踊りにと楽しい演出を眺めながらユーリは複雑な気分だった。
「確か、私が日本を失踪したときは二人は顔見知り程度だったはず。こないだ(パロディ3話)の未来旅行では二人はつきあっていた・・・・・。これって、もしかしたら私が原因???」
「シュンシューン」「はい、ユーリさま」「私が生きているってこと、本当にメッセージとして残せないのね???」「・・・・・・・・・・・・」(残せるものなら自分だってメッセージを残したい。私たちは一家ぐるみでタイムスリップしたのだから・・・)
日本の結婚式を心から楽しんでいるハディたちを横目に、ユーリとシュンシューンとアリエルは複雑な表情で眺めていた。
最後に行ったのは・・・
結婚披露宴も無事お開きになったところで、アリエルがこう言った
「ねえ、あなた、出かけるときガスの元栓閉めたのかしら」
「えっ??」
ユーリや他のメンバーも「シュンシューンの家に行ってみたい」と言ってくれたので、寄ってみることにした。今の季節は秋。さっき、ディズニーシーで
「Today's Information」 (パンフレット)が落ちていたので、瞬間物質移動機を使って取り込んでみたところによると、夏にタイムスリップしてから数ヶ月後に来たことになる。
まさか、取り壊されていることはないと思うが、自宅はどうなっているのだろうか。「貴族の割にはわりと狭い家なのね」とハディ。「ギクッ」
「でも、物が豊かだわ」「井戸はどこにあるの??」「そこの壁から水とお湯が出て来るんだ」「すごーい。王宮にもこんな仕掛けないわ」
ガスの元栓がしまっているのを確認した後、女性軍には自由におしゃべりをしてもらいつつ、アリエルとシュンシューンは手がかりを探していた。
タイムスリップした後、我が家はどんなふうに扱われいてるのか。鈴木夕梨のように失踪扱いなのか。
でも、そんな風にはみえない。
台所は綺麗に片づいているし、玄関回りもこぎれいにしてある。あれ??寝室の布団が羽毛布団だぞ。
洋服かけには帽子とTシャツではなく、トミーヒルフィガーの秋物のブルゾン。子供達の長袖の洋服は、見たことのない真新しいミッキーマウスのトレーナー。
居間の写真立てには、タイムスリップ直前に海岸で撮った子供の写真。(タイムスリップしたとき、フイルムタイプのカメラは車の中で、ヒッタイトには持ち込んでいなかったが)
シュンシューンとアリエルは、顔を見合わせた。二人とも、状況が全くつかめず、呆然としている。
(先日の私のように、自分の家を目にしながら下りられないのでは、辛いわよね。私も妹と元彼の結婚式を見て辛いけど、私のように決心して残っているのではないから、あの二人の方がつらいよね)
ユーリは、傍らで抱き合っているシュンシューンとアリエルを後目に、タイムマシンの操縦席にそっと座ると、ヒッタイトへ戻る操作をした。
(タイムマシンのメーターや操作系は英語とアラビア数字で書かれており、メーターの読みとりが必要な時間移動は20・21世紀人でないとできない。)
ヒッタイトへ
タイムマシンはヒッタイトにあるシュンシューンの執務室に着いた。
出発してから(グレゴリオ暦で)3時間ぐらい後である。
「ユーリさま、操縦ありがとうございます」
「いいえ、気にしないでね。ヒッタイトではタワナアンナと文官だけど、21世紀では高校生と社会人よ。私も色々勉強になったし」
「踏みつぶされそうになったときは怖かったけど、ディズニーシー、楽しかったわ」
「シュンシューンさま、テシュプランドのとなりに『テシュプシー』でも作ったらいかがですか」
すっかりストレス発散したユーリを囲み、みな、和気藹々と解除光線を浴び、執務室の内鍵を開けた。
扉の両側に皆が並び、シュンシューンを従えたユーリが執務室をあとにした。
その後
ユーリは、生まれて初めて見た、ホテルの感動が忘れられなかった。
美しいロビーや宴会場に客室。スタッフがきびきび働くバックスペース。
さらに、皇帝遠征中で自分は寂しい思いをしているのに、シュンシューンとアリエルがいちゃいちゃしていたのもちょっと妬ける。
そこで、皇帝陛下が帰ってくるまでの間、ホテルの様々な話を聞くために、たびたびお召しをかけるようになった。
たまたま、皇帝不在で忙しかったイル・バーニが留守がちだったこともあり、結果的に、イル・バーニの名代としてお側に控えっぱなしということになってしまった。
未来旅行の数日後、シュンシューンの自宅では大変なことになっていた。ディズニーシーのおみやげとして、落ちていた
「Today's Information」 (パンフレット)を取り込んで持ち帰っていたものが子供達に見つかり、「どうしてぼくたちを連れていってくれなかったの」「これは皇后陛下にお仕えするお仕事よ。」と、アリエルと子供達が大喧嘩を始めてしまったのだ。その時、玄関のドアがバタンと開かれて・・・・・・・
ご案内
このお話は、パロディ8話「皇帝陛下の憂鬱」とリンクしていますので、併せてご覧になることをお勧めします
(続編ではなく、同時進行という形です。)
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