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「天は赤い河のほとり」パロディ小説(16)

「ユーリ、日本へ」



またまた時間旅行
ユーリとカイル、シュンシューンにお付きの者数名は、またまた21世紀に時間旅行していた。
ユーリがタイムスリップして数年後のユーリの自宅に着いたタイムマシンだったが、連日の激務と子育てでお疲れ気味のユーリはうとうとしていた。
「ユーリさま。ご自宅に着きましたよ」ハディがユーリを起こしに行った
 
 
 

ユーリに起こったこと
「ハディ、ありがとう」ユーリは寝ぼけ眼で立ち上がると「トイレ」に向かった。
「ユーリさま、その扉はトイレではありません。開けないで下さい」シュンシューンの声もむなしく、ユーリは非常口を開け、そのまま外に転落してしまった。

カイルは、窓の外を見て絶句した。自宅の前にユーリが横たわっているではないか。「シュンシューン。すぐにユーリを収容してくれ」
「皇帝陛下、非常口から外に出てしまうと、二度と中には戻れません」シュンシューンは青ざめて答えた。
「す、すると…」「このタイムマシンに乗っていないと、ヒッタイトに戻れない」「つまり」「はい、ユーリさまは21世紀で暮らすことになるのです」
「まさか、このような事故でユーリを失うとは……。シュンシューン、そなたの処分は帰ってからだ」
 
 
 
 

ユーリの自宅では
ユーリが目を覚ますと、そこは懐かしい日本の自宅。目の前にはママがいる。
「夕梨、もどったのね。10年もどこに行っていたの??」
ママは泣きじゃくっている。詠美と毬絵も涙ぐんでいる………
仕事先に連絡が入り、パパも仕事を切り上げて帰って来た。

「ママ、パパ、詠美と毬絵。どうして私自宅にいるの?。今いつなの?」
 
 
 

ママの話
まず、夕梨の不安を取り除くため、質問を後回しにしてママは説明を始めた。
今は夕梨が失踪してから10年後。
高校に合格したばかりの夕梨がかき消すように消えて、警察も捜索したけど見つからなかった。マスコミが、北方国家の工作員に拉致されたのでは、と推測。状況からその疑いが濃厚ということになり、一応「拉致被害者連絡協会」の会員になっている。(だから、仏檀に夕梨の位牌がなかったのだ)
氷室 聡は責任を感じて自死寸前のところを、詠美に発見され、「夕梨が帰ってきたときにあなたがいなければ夕梨はがっかりするわ。夕梨が帰ってきたら皆んなで迎えよう」と説得された。その後、夕梨の手がかりの薄さに比例して二人は接近。婚約した。
 
 
 

夕梨の話を聞いて
次は、ユーリが話す番である。タイムスリップしたときから、今までのことを話した。最初は信じられないといった様子の家族だったが、話のリアルさに引き込まれていった。
夕梨の家族だからこそ、あまりにも非現実的な話も受け入れられたのだろう。
 
 
 

社会復帰に向けて
10年ぶりの日本の生活も、わりとすぐに馴染めた。
もっとも、うっかりすると3日ぐらいお風呂に入らなかったり、トイレのカギをかけ忘れたり、料理が化学添加物で薬臭いのが気になったりはしたけど。

ただ、世間がまるでコミックみたいな話を受け入れてくれるとは思えない。
そこで、詠美が通っている大学の教授を通じ、心理カウンセラーと政治学の教授(政界に影響力のある重鎮であった)が呼ばれ、さらに、「北方国家拉致被害者連絡協会」の関係者を通じ、政治家や北方国家の関係者ともコンタクトを取り、鈴木夕梨さんは、北方国家に拉致され、居住していたが、北方国家から許されて帰国した、ということにした。
もちろん、政府関係者や北方国家関係者から最低限の情報は仕入れ、雑談程度なら会話についていけるようにはなった。

実際に拉致をしていない北方国家だが、「鈴木夕梨さんの帰国を認めた」と宣伝することで人道的な国に変わりつつあることをアピールできるチャンスと判断したのである。今後は、これを皮切りに、生存者は帰国させることになるようだ。
 
 
 
 
洋服騒動
それにしても、毎日のように「ベルメゾン」「千趣会」「ニッセン」の通販商品が届くのに夕梨は閉口した。
犯人はママと毬絵である。
夕梨は自宅で収容されたときに来ていたヒッタイトのドレスから、クローゼットにしまわれていた自分の服に着替えた。失踪前に着ていた服の中では「I LOVE NY」といったストリートファッションや「70'sUKカジュアル」「スノーボードスタイル」がお気に入りである。保存状態が良好なこれらの服は毎日洗濯するので清潔で気持ちいい。
でも、ママと毬絵は「流行遅れ」という理由で、新しい服をどんどん取り寄せているのだ。
「古い服はどうするの。」「もちろん、捨てるのよ」「ええっ、まだ着られるのに」夕梨は思わず悲鳴をあげ、泣き出してしまった。
ヒッタイトでは、みな、ボロボロになるまで、時には何世代にもわたって服を着継いでいく。
王宮ではさすがにボロは着ないが、古くなった服は臣下に下げ渡し、臣下はそれをリフォームして着ていたのだった。

ママと毬絵は、一瞬で事情を察知した。1枚の服を巡る庶民の姿を見ていた夕梨は、服を捨てることに耐えられなかったにちがいない。
毬絵は「ごめんね、夕梨」と夕梨の肩を抱いた。ママは、ゴミ袋から夕梨の古い服を取り出すと、段ボール箱に丁寧に詰め直し、クローゼットに保管した。
ああ、クローゼットの肥やしがどんどん増えていく・・・・・・・・


 
 

新しい生活
高校に入り直すにあたって、夕梨は、定時制の高校を選んだ。全日制で25歳の高校1年生では辛いし、今までのブランクを取り戻すのに、昼間を高校生活で潰すのはもったいないからである。
昼間は、大学の聴講生としてヒッタイト史を学ぶことにした。楔形文字の読み書きができるので、教授に認められるようになったら、いずれは学ぶ方から研究する方に回りたい。
大学に行かない日は乗馬スクールでアルバイト。ヒッタイトでは馬が手放せなかった夕梨。馬の取り扱いはプロ級である。(北方国家で馬に乗っていたことにした)
 
 
 

再会
新しい生活のめどがついたころ、夕梨は(詠美の許可をもらって) 氷室聡と二人きりで自室で会うことにした。
「夕梨!」「氷室!」二人は手を取り合い、再開を喜んだ。
「氷室、婚約おめでとう」
「夕梨、すまない。きみが辛い思いをしている間に、妹とこんなことになって」
「んん。いいのよ。わたしはカイルのものだったんだから」
夕梨は改めてヒッタイトのことを話し始めた。
「そうか、子供まで産んでいたのか」(その割には体型が崩れていない…)
「ええ、カイルの子供を2人」
「でも、カイルさんと結ばれなかったら、(タイムマシンを持つ文官との接点がないので)キミはここに戻れなかったのだろう」
「ええ、それ以前に とても生きていられなかったわ」

「でもね、カイルと結ばれる前は、ずっとあなたのことを考えていたの。詠美の所に行く前に、抱きしめて。あとはお友達…じゃなくて義弟ということで」
「ああ」
氷室は、夕梨を抱きしめた。
扉の隙間から見ていた詠美は複雑な気分だった。
私が聡のところにいなければ、聡はきっと自死していた。聡も私も愛し合っている。
でも、34世紀分の時空を超えたつながりとなるとかやの外。夕梨、聡を取らないで・・・・

「氷室、ありがとう。これでカイルとのこともなんとなくあきらめられるし、あなたと詠美のことも祝福してあげられる」
「義姉さんもいい人見つけなよ」「もおっ」
詠美は少しほっとした。
 
 
 

新しい生活2

その後、夕梨は高校に通いながら、大検の資格を取った。ヒッタイト史の教授から熱意を認められ、大学に編入を許可された。
教授に本当の事を話したら大喜び。夕梨も研究室では大っぴらに楔形文字を読み進んで研究を続けいくことになった。夕梨はヒッタイトのことにとても詳しいので、卒業後は講師として大学に残って欲しい、と教授に誘われた。また、研究室にいる独身の助教授が何となくカイルにそっくりで意識してしまう・・・・
ヒッタイト研究に夢中で、婚期を逃しそうな助教授も、ヒッタイトの香りがするユーリのことを非常に意識している様子である。(夕梨に子供がいたことも承知ずみである。ましてや あのムルシリ二世皇帝陛下と兄弟になれるのだ…)

一方、乗馬スクールのアルバイトも順調。裸馬に乗る技術を教える事が出来るのは夕梨しかいないので、大学を辞めて就職するように勧められる始末である。(時代劇などで裸馬に乗る技術がいる場合がある)
乗馬スクールの生徒さんで、ザナンザそっくりの青年映画監督が夕梨の事を気に入っているみたいで、先日、食事に誘われ、行ってきたばかり。
聞くところによると、将来はヒッタイトとエジプトの間の大戦争「カディシュの戦い」をテーマにした映画を撮りたいとのこと。(主人公のヒッタイト皇帝「ムワタリ一世」は私の息子じゃん・・・) 有名な映画「TROY」を見て、そう心に決めたそうである。

「ヒッタイトの研究+カイルそっくりの助教授」「大好きな馬+ザナンザそっくりの青年映画監督」いずれはどちらかを選ぶことになるのだろうか………
 
 
 

新しい生活3
そして、ある日曜日。夕梨は念願の「東京ディズニーシー」に行くことが出来た。
もちろん一人ではなく、詠美と氷室、研究室の助教授と4人でWデートの形で。
「ここは2回目で中の様子がよく分からないわ」と詠美。聡と助教授は初めてなのでまったく勝手が分からないと言う。
「それでは、まず、『アンコール』から見ましょう。とっても素敵なショーよ」
ええっ、夕梨がタイムスリップしたのは東京ディズニーシーが出来る前。どうしてそんなこと知っているの?
そりゃそうだろう。ユーリはタイムマシンを使って何回かここに見物にきているんだから。(車窓から見るだけだったが)
 
 
 

トルコ研究旅行

大学の研究室で、トルコのボカスキョイに調査旅行に行くことになり、楔形文字が読める夕梨も誘われた。
もちろん、同行させてもらう。

かつてハットゥサがあったところ。神殿の礎石などが並んでいる。
夕梨は教授に「この場所は神殿」「ここは後宮」と説明している。34世紀の時が過ぎているとはいえ、かつて自分が暮らしたところ。当時の生活の様子を語れば、それがそっくりそのまま 教授のいる研究室の研究成果になるのだ。

休養日、夕梨は一人で遺跡を訪れた。
遺跡のはずれ、秘密の場所にあるカイルの墓は荒らされていなかった。自分も一緒に入る墓でもあったので、場所と構造は熟知している。
でも、カイルの墓は荒らされたくなかったので、わざと存在を伝えなかった。
「カイル、一緒にお墓に入れなくてごめんね」夕梨はそうつぶやきながら、秘密の石を外して中に入った。
入ってすぐの所に、水盤があった。
かなり汚れているが、カイルの使っていたものに間違いない。
近くの泉から水をくんで、水盤に注ぎ、呪文を唱えてみる。カイルの姿が見えるといいな

ん?。水盤の向こうにカイルの姿が………
何か、神殿で儀式をしているようだ。えっ「テシュプ神よ、イシュタルを戻したまえ?」って言ってるの?

わあっ、水がざわめいて、引き込まれてしまう………
 
 
 

ハットゥサで

気が付くと、ユーリはカイルのベッドの上に横たわっていた
「ママ、パパ、教授。どうして私、ここにいるの?。今いつなの?」
「教授って何だ?。ユーリ。せっかくシュンシューンが時間旅行に連れていってくれたのに、ユーリは タイムマシンの中で居眠りをしていたとは。ハディが起こしても起きなかったじゃないか。ユーリが起きないから、シュンシューンが行き先を変更して、東京の 新名所『六本木ヒルズ』を見せてくれたんだけど」
カイルはちょっと不機嫌な様子でユーリに語った。
 

「えっ 私寝てたの?」てっきり現代にタイムスリップしたと思いこんでいたユーリは、しばらく呆然としていた。
 
 
 

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実は夢オチです
そう、この話も夢オチでないと成立しない話です。
タイムマシンの非常口から飛び降りて現代に行けるのなら、シュンシューン一家はとっくに21世紀に帰っています。
 
 
 
 
 
 
 
 

幻の最終回に向け、シュンシューンはタイムマシンの改造作業を進めています。目的の年代で下車できるように・・・・


(C) 2004 SHUN-SHUUN INARI