「天は赤い河のほとり」パロディ小説(17)
ヒッタイト版「いま、会いにゆきます」物語
この話は、
「いま、会いにゆきます」市川拓司原作、高田靖彦作画 小学館ビックコミック と
「天は赤い河のほとり」篠原千絵著 小学館フラワーコミック
のパロディです。
独身将軍、カッシュ
ユーリさまがタワナアンナになって数年。戦車隊長のカッシュはヒッタイト軍の将軍になっていた。
でも、かつて愛したウルスラのことが忘れられず、未だ奥さんを娶らない独身将軍であった。
権力、容姿……。年頃の娘を持つ貴族たちは娘を嫁に嫁がせたがったが、カッシュは全部断っていたので、一部では不能ではないかという噂が立ったほどである。
帰ってきた彼女
ある休養日、カッシュは馬に乗って赤い河のほとりを駆けていると、黒髪の女性が河畔にうずくまっていた。
「ウルスラ!!」「はい」。
でも、何か様子がおかしい。確かに面構えはウルスラで、名もウルスラと名乗っているが、カッシュと付き合っていたことを含め、最近の記憶が無い様子なのだ。
そこで、カッシュはウルスラを自宅に連れ帰り、今までのことを少しずつ教えてあげることにした。
亡くなったはずのウルスラが帰ってきた。カッシュは夢のような心地である。
早速、求婚(婚約の確認)し、ウルスラもそれに応じた。
一緒のベッドに寝ることになった二人だが、ウルスラは「記憶があやふやで不安なの」と最後の一線を越えることは拒否した。
でも、ウルスラは愛情をこめ、手などを使った「それ以外の方法」でカッシュへの愛情を示した。
将軍職で忙しかったカッシュだが、時間を見つけては楔形を教えたり、自家用戦車でウルスラをあちこち連れて歩いた。
ウルスラが亡くなった時に比べ、街は活気づき、人々は生き生きとしている。
「さすが、カイルさまとイシュタルさまの治世だわ。でも、どういういきさつでこうなったの?」
ウルスラはカッシュに尋ねたが、「いずれ話すよ」とカッシュは言葉を濁した。
そういえば、どうしてウルスラが亡くなったのかも、カッシュは未だに話していない。イシュタルさまにお仕えするまでのことしか話してないのである。
その日
カッシュは若い兵士を鍛えるため、数日間の遠征訓練に出かけた。いつもの遠征訓練は若い兵士と語り合ったりして楽しい行事であるが、今回はウルスラが戻ってきて初めての遠征であり、とても寂しかった。
ウルスラ・・・・・・・今、何をしているのかな?? 会いたい
「カッシュ将軍!! 馬から落ちそうですよ」いかんいかん。
カッシュは数日間の長い遠征を終え、自宅に戻った。
ウルスラ特製の豪華で質素な料理を食べ、床に入る。
「ねぇ カッシュ」「なんだい」「今夜・・・・いいよ」
カッシュは喜んだが一方で少し不安もあった。なぜ、急にOKなのか。自分の留守中にウルスラの身に何かあったのか・・・・・
でも、事が進んでいく内にその心配は杞憂だと言うことが分かった。
ふるえながらカッシュに応えていく様子。その瞬間の苦痛と安堵が入り交じった表情。ベッドについたシルシ。
カッシュはようやくウルスラが自分のものになったことを実感した。
気持ちを表に出すこと
その後、何晩か過ごすうち、ウルスラは痛みこそ感じなくなったが、何かこらえている様子がする。ウルスラと知り合う前(カイルさまが皇子だったころ)、娼館で体験した女性たちはもっと奔放だった。
「ウルスラ、何も我慢しなくたって・・・・自分の気持ちを表に出すことは恥ずかしいことではないんだよ」
「…………」
カッシュは密かにミッタンナムワ将軍の所を訪ね、相談した。
女性の相手はAV男優級のベテランである ミッタンナムワ将軍は「きっと、好きな人にハシタナイところを見られたくないので、遠慮しているのだろう。これを持って行け」と薬の小瓶をくれた。
瓶には「カルケミシュ特産、ナキア印のピンク色の水」と書かれていた。
そして、ウルスラと結ばれてから2週間目の晩、カッシュはウルスラのワインに「ナキア印」を1滴混入した。
案の定、ウルスラはいつもより良い反応を示した。でも
「行く、行く、行きたくない、いきたくない、ああっ」
ウルスラは初めて果ててしまった。同時にカッシュも果てた。
「やっとキミも行けたね」「しくしく、ぐすん」
泣くほどうれしかったのか。でも、様子が変だぞ。
カッシュはウルスラの手を握ろうとした。でも、背後の松明の明かりが手のひらから透けて見える。
ウルスラ、最後のお願い
「ねえ、カッシュ」我に返ったウルスラは言った「お願いだから、わたしがユーリさまにお仕えするようになってから、カイルさまとユーリさまが即位するまでのことを話して」「で、でも・・・・」
「いいから、急いで話してよ。わたし、あと半日で消えちゃうの。お願い!!」
カッシュは、ウルスラを抱きしめながら、後のことを話した。アルヌワンダ帝が暗殺され、ユーリさまがピンチになったこと。ウルスラが自首し、処刑されたこと。
そして、ユーリさまがエジプトにさらわれたことや、ナキアさまが失脚したことも。
話しているうちにも、ウルスラの身体はだんだん透けている。
「カッシュ。わたしは冥界神のもとへ帰らなくてはいけないの」
「ウルスラ!!」
「カッシュ。話してくれてありがとう。さようなら」
ウルスラの身体は、霧が晴れるような感じで、消えてしまった。
「ウルスラ・・・・」
カッシュは、自分の部屋を見渡した。ウルスラと一緒に市場で買い求めたペアのコップ。ペアのチョーカー。ウルスラの服、そして、シルシの染みついたベッド。
ウルスラが処刑されたとき、カッシュは涙をこらえていたが、今回はこらえることができなかった。
様子を覗きに来たミッタンナムワ。カッシュの咆哮する声にドアを少し開けて中をのぞくと、彼に声をかけることなく、ヒッタイト軍の司令部に向かった。カッシュが休暇を取ることを伝えるために…………。
第四神殿で
カッシュは、ウルスラが冥界神の所へ去ったことを認めたがらなかった。
ミッタンナムワ将軍やシュバス参謀長の勧めでようやく墓参りのため第四神殿を訪ねたのは1ヶ月後のことである。
カッシュの祈る姿を見たミッタンナムワとシュバス。「カッシュさまもお気の毒ですね。」「ああ、最愛の人に2度も先立たれたのだから」
カッシュは帰りがけ、ネピス・イルラさまから「ウルスラさまからこちらのつぼを預かっています。ウルスラさまが消えたあと、初めてカッシュさまがウルスラの墓前に参ったとき、渡して下さいと言付かっているのです」と一抱えぐらいあるつぼを受け取った。つぼの口はロウで封印されている。
カッシュは自宅に戻ると、封印を解いた。中から板状のモノが。よく見ると、細長くコイル状にした金属でパピルスより薄くて白いものを綴じたものが出てきた。
表紙をめくると、ウルスラの字がたくさん書いてある。
愛するカッシュへ。
元気でがんばっていますか?
あなたがこの「ノート」を手にしたということは、わたしが冥界神の所へ旅だったことをやっと受け入れてくれた、ということですね。
私は、今、王宮地下の倉庫でこっそりこのノートを書いています。今っていっても分からないですよね。この数日前、アルヌワンダ帝が何者かに殺害され、私のまわりはバタバタしています。女官が一人、少しの間姿を消しても誰も気にとめないでしょう。
実は、わたしはあなたに少しだけうそをついていました。わたしが赤い河のほとりであなたと再会したとき、わたしは記憶喪失などではなく、あなたのことを知らなかったのです。
その時のわたしは、国のはずれの貧しい村で、家族と一緒にギリギリの生活をしていました。山へ木の実を取りに行ったとき、急に夕立が来て、木の下で雨宿りをしていると、その木に雷が落ちたのでしょう。目も眩むような衝撃とともに、わたしはカイルさまとイシュタルさまが国を治めている時代にタイムスリップしたのです。
戦車で通りがかったあなたの姿を見て、わたしは素敵な方だと思いましたが、それよりも驚いたのはヒッタイト軍の将軍であるあなたがわたしと「再会」したことを喜び、シャワーのように愛の言葉をくれたこと。 そこで、わたしは記憶喪失のふりをして、あなたのそばにいて、いままでのことを聞き出していたのです。
わたしが偽イシュタルとしてやりたい放題のことをし、その後イシュタルさまにお仕えすることまではすぐに話してくれたけど、どうしてわたしが冥界神に召されたのかを話してくれませんでした。
それだけが不安で、あなたの求めに応ずることが出来なかったのです。
それ以外は楽しく過ごすことができましたが、ある日、あなたの遠征中にネピス・イルラさまがやってきてわたしに言いました。
「あなた、カッシュとは済ませたの?」「実はまだなんです・・・」「そう、それならよかった」「ネピスさま、どうしたのですか」
「実は、あなたがカッシュと結ばれる。それはいいの。でも、結ばれている途中にあなたが頂点に達すると、霊的に不安定な状態であるあなたは、半日後に消えてしまう」「と、いうことは」「あなたがカッシュの愛を受け入れることはあっても、絶対に頂点に達しないでね」
わたしが頂点に達しなければあなたと結ばれることができる。神官のお墨付きに、わたしは天にも昇る心地でした。
このやりとりの数日後。あなたが帰ってきてわたしたちは結ばれました。すごくしあわせでした。
でも、それから2週間後のあの日、いつもより激しかったあなたは、とうとうわたしを頂点に押し上げてしまいました。
わたしはあせりました。半日後に消えてしまう。そして、あなたはやっとわたしが消えた理由を話してくれました。
ショックだったけどうれしかった。わたしの命と引き替えにカイルさまとイシュタルさまは皇帝と皇后になり、素晴らしい治世を敷いているのですから。
わたしは、あなたの腕の中で愛情あふれる眼差しを受けながら、意識が遠のいていきました。
ふと目がさめると、わたしは貧しい村のはずれ、森の中に倒れていました。この6週間の出来事。一瞬の間の幻だったのでしょうか・・・・・
でも、幻が事実だったしたら・・・
案の定、森の中の出来事の数日後、ハットゥサからナキア皇后さまのお付きの神官、ウルヒ・シャルマさまのお使いの方がわたしのところにやってきました。
カタパで良い仕事があるから来ないか、と
わたしは少し迷いました。この話に乗ると、わたしはたった22歳で人生を終わることになってしまう。
このままこの話を断れば、楽ではないけど平凡に暮らしていけるのではないか、と。
でも、何のためにわたしは死ぬのか。わたしが死なないとユーリさまが処刑されてしまうかも。
それに、わたしがあなたと一緒に過ごし、結ばれることができたことを「なかったこと」にしたくないのです。
わたしはカタパに行き、ウルヒさまの命じるまま、カタパの街で偽イシュタルを演じ、その後はカッシュの話したとおり、ユーリさまにお仕えすることができました。
ユーリさまにお仕えするときも、あなたと過ごす時間を持つことができ、幸せでした。
カッシュが教えてくれた楔形(もじ)のおかげで手紙を書けるのですが、この手紙を書いている外国の珍しい記録具「ノート」はわたしが移民の文官(名前は忘れてしまいましたが)からもらったものです。
文官の奥さんは、移民であるがためになかなか回りに馴染めなかったのですが、同じくよそ者であるわたしが相談相手になったところ、状況が好転。そのお礼にもらったのです。
もう少し書いたら、「ノート」をつぼに入れ、封をして、第四神殿の神官長 ネピス・イルラさまに預けたいと思います。
そのあと、わたしは元老院に「自首」しにいきます。その後は冥界神の許へ。
わたしが処刑される寸前、あなたがキスしてくれるそうなので、処刑の瞬間も怖くないと思います。
まもなく、ウルヒさまのお使いの方が迎えに来ます。それについていけば、あなたに再び会うことが出来るのです。
忘れられない私たちの未来、そしてカイルさまとユーリさまの未来へ。
今、会いに行きます。
大参考:「いま、会いにゆきます」市川拓司原作、高田靖彦作画 小学館ビックコミック
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ウルスラについて
ユーリさまとカイルさまのために命を落とした女官ウルスラ。ちょっと資料が少なくて苦心しました。
この話ではもう一つのパロ元である「いま…」と話をすり合わせたかったため、初めて結ばれた相手はカッシュ、という設定にしました。(秋穂澪が初めて結ばれた相手は主人公の佑司という設定)
ウルスラは、カタパの街で男を従えて悪行三昧していることと話が合わないと思われるかも知れませんが、
・悪行三昧しないとハットゥサからユーリは来ないので、必死に芝居した。
・イシュタルという立場から、言い寄る男に最後の一線を越えさせないことも可能だし、タイムスリップして帰ってきたときにはすでにカッシュを知っており、それなりの男あしらいもできて問題ない
ということでどうでしょうか。
私の考えたカタパ事件当時の推定年齢は、ユーリ16歳(これは決まり)、双子17歳、ウルスラ22歳、ハディ25歳
です。
女官長という立場と、数年後に「お局」になることから、ハディの年齢を高くしてみました。
この設定では読者のAさまの意見を参考にしました。ありがとうございます。
シュンシューン非登場の話
「いま…」の原作はコミックと小説、両方読んだのですが、小説のパロディと言うには中身が貧弱なので、ストーリーの簡単なコミックのパロディと言うことにしました。(映画はまだ見ていません)
はじめてシュンシューンが登場しない話を書いてみました。
やっぱり、核となる人物無しだと難しいですね。(私は原作の設定をあまり変えないので)
でも、シュンシューンの痕跡だけは紛れ込ませてあります。どこでしょう?